木材業界では多くの方が知っているように、桧には驚くべき性能があります。年月を経ると強くなるのです。小原二郎先生の研究によると、伐採されてから2~300年までの間は、圧縮強さ、剛性の数値が増加し20~30%も増え、その後緩やかに下降しますが千年経っても、まだ伐採時の強度以上あります。(衝撃値は300年までの間に30%低下するが、その後はほぼ一定である。)
そこで思い出されるのが法隆寺で構造材はすべて桧です。現在まで1400年も木造建築が存在している事に驚きますが、桧を利用していることと無関係ではないでしょう。ヒノキ
この経年変化の性質はどうも針葉樹特有のものと思います。
バイオリンのストラディヴァリウスなどの名器は製作した職人の技術力もありますが、年数が経っていなければならないと言われています。この年数が必要なのは、先の性質で説明できますが、そうするとあまりに古くなると、逆に音が悪くなるという可能性があるのではないでしょうか。高いバイオリンを持っている方、注意してください。今から予言しておきます。
桧は日本の人工林の中では杉に次いで多く、木材としては一番の木であるのは誰もが認めるところですが、文化、芸術の分野では、あまり出てきません、わすがに万葉集に2-3首、諺として数種ある程度です。
『木は檜、人は武士』又は『人は侍、木は檜』 木の中では檜が最もすぐれ、人では武士が最も立派であるの意ですが、今の時代ではとてもこのようなことは言えませんね。同様のものに「花は桜木、人は武士」、「花はみ吉野 人は武士」があります。
『檜山の火は檜より出でて檜を焼く』檜の群生地の山火事は、檜の枝と枝とがすれ合って発火するため起こり、その檜を焼くことになる。自分の行為や自分の名がもとで自ら苦しむ例えをいいます。
私が関わった桧の話を2つ書きます。 スポーツで使う木といえば野球のバットがあるが、金属バットもあり、木だけというのは卓球以外にはないと思います。私が初めて木を意識し、研究したのは桧で、高校三年生の時でした。卓球の面白さに取り付かれ、受験勉強の合間に卓球部員を誘い出して遊びました。大学では迷わず卓球部に入りましたが、当時のペンホルダーのラケットは桧の一枚板で、新しく買ったラケットをケースから出すとプーンと桧独特の香りがしました。
練習に熱が入ると、道具であるラケット選びにも熱が入ります。板の木口から見て年輪の目が荒いもの、斜めのもの、ムラのあるものはダメで、均一の細かい木目のものを探し卓球ショップを渡り歩きました。 多くの選手が血眼になって探し、強い選手、有名選手に良いものを優先的に回しますので、弱い私には最後までいいラケットを得ることは出来ませんでした。
私が会社に入って、最初に商品化したのも桧の商品でした。当時私は商社から戻ってきて、杭や矢板の土木仮設材の営業を始めました。ゼネコンの土木工事現場のハウス(現場事務所)に飛び込み、セールスするのですが、会ってもらえても名刺を受け取ってくれないことが多く、ひどい場合には、私の名刺を投げて返してきます。当然、成約率も1-2割で、どのようにしたら名刺を受け取ってもらえるか考えました。桐名刺はすでに販売されていしましたが、もっと木材らしい名刺を作れば、もらった相手は興味を持つのではないかと思い、加工所を探しました。運良く見つかり、桧の名刺を作ることができ、早速自分の営業で使ったところ、効果てきめん、ゼネコンの人はみんな桧の名刺を珍しがり、ほとんどの人が臭いをかいだりして話は弾みました。飛び込みの成約率は8割にあがりました。
私たちの会社で販売もしていますが、商品サイクルが短いクラフト業界の中で、もう三十年のロングセラー商品になっています。
最後に桧の語源について話しましょう。桧の木片から火を熾したことにより、「火の木」となった、という話が本によく書かれていますが、いろいろ調べて見ると、矛盾が出てきました。まず桧が一番に発火しやすいという事はありません。杉の方がまだ火付きやすい。また弥生時代からの出土ではスギの方が多いのです。また発火用の木材としては、ウツギ、榎、椨(タブ)も比較的多いのですが、よく乾燥した木ならばほとんど同じように熾すことが出来ます。桧は後の時代で特に神社関係に多いです。専門的になって恐縮ですが、学者の話によると、桧の「ひ」音は「ひ=hi」」音、火の「ひ」音は「fi=ふぃ」音なので別とされています。「ひ」という発音と「火」が後々になって結びついたのではないでしょうか。むしろ、高貴な木の意味の「日の木」の意味の方が説得力あります。