大阪の街を歩いていると、ほんの十数年前に比べて外国の方の姿を見かける機会が多くなりました。それもそのはず、我が国日本では、2003 年から政府主導で観光立国を目指し様々な取り組みを実施しているのです。当初は年間
521 万人であった訪日観光客数は 2017 年には2869 万人と 5.5 倍にまで急増しており、さらに 2020 年には
4000 万人を目指すとしています。
この訪日観光客数のさらなる増加の起爆剤として期待されている構想のひとつに統合型リゾート(IR)の開発があります。IRとはカジノを中心としてホテルや劇場、パーク、ミュージアム、MICE施設(国際会議場や展示施設 等)などを一つの区域に含んだ統合施設のことをいいます。日本の現行法のもとではカジノは違法ですが、IR推進法※1の成立・施行やIR実施法※2の公布によってIR開発が現実味をおびてきています。
世界各地にあるカジノのなかでもアメリカネバダ州(ラスベガス)、マカオ、シンガポールなどが有名ですが、これらを含めてカジノを合法としている国・地域の数は 130 以上にものぼります。
そのなかでも世界一の規模を誇るマカオでは、カジノ等による税収は約 940 億パタカ(約 1 兆 2700 億円:2017 年)にのぼっています。同年のマカオの歳出が 777 億パタカ(1 兆 500 億円)でしたから、歳出の全てをカジノ等の税収で賄うことができたことになります。
また、シンガポールは 2005 年にカジノが解禁され、その後の 2010 年にホテルや商業施設を備えた2箇所のIRが開業した比較的新しいIR導入国です。この2箇所のIRの開発では民間投資額約1兆円を実現しており、さらに開業後5年を待たずして国全体の観光客数は6割増、観光収入は9割増と飛躍的な伸びを見せています。
それでは、日本にIRを導入した場合の経済効果はどの程度になると見込まれているのでしょうか。大和総研の調査(平成 28 年)によりますと、国内に3カ所のIRが設置された場合には、その建設による経済波及効果は約 5 兆 500 億円、IR運営による経済波及効果は年間約 1 兆 9800 億円と試算されています。このように経済効果の規模は非常に大きく、IRが地域活性化や雇用創出、国や自治体の財政貢献に大きく期待されるのもうなずけます。
しかし、経済効果とは対に語られる問題として「ギャンブル依存症」や「治安の悪化」「マネーロンダリング(資金洗浄)」などがあります。世界のカジノではこれらの問題点に対し、左表のような回避策が実施されています。日本にIRを導入する際には、これらの回避策を参考にしながら十分な配慮のもとで実施されていくことになります。
日本国内に設置されるIRは3箇所といわれており、大阪もIR誘致に立候補しています。大阪はその特徴ある地域性や外国人観光客数の多さ、2025 年の万国博覧会の開催、首都一極集中の緩和等の観点から有力候補の筆頭に挙げられています。
IR実施法が公布された現在、IRが現実のものとなる可能性は非常に高いといえるでしょう。そうであれば、IRの利点を最大限に活かしつつも、懸念材料は最小限に回避することで世界屈指の魅力的なIRを建設し日本が観光大国となるための大きな力になることを期待します。そして大阪も万国博覧会とIRのW誘致を実現し、さらなる発展がなされる未来を心待ちにしています。
※1 特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(2016 年 12 月)
※2 特定複合観光施設区域整備法(2018 年 7 月)
■IRに関する問題点の回避事例 | ||
規制対象 | 内容 | 回避効果が見込まれる問題 |
自国民の入場規制 | IDカード等による本人確認 | ギャンブル依存症 |
入場回数の制限 | ||
入場料の賦課 | ||
自己申請等に基づく入場禁止・入場回数制限等 | ||
営業規制 | 厳格な背面調査等に基づく審査を経てカジノ事業を許可 | 治安悪化マネーロンダリング |